炬燵の中でゲーム三昧

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繭、纏う 感想

 ずっと気になっていた『繭、纏う』、独特な伝統を持つ星宮学園に通う少女たちの、繊細で美しく、耽美な物語がとても素敵だったので、つらつらと感想を。

 

繭、纏う 1 (ビームコミックス)

繭、纏う 1 (ビームコミックス)

 

  

 ※ 前半はネタバレに配慮していますが、気になる方はご注意下さい。あと百合作品なので、苦手な方もブラウザバック推奨。

 

 「私たちの制服は髪で出来ている」。学園の古くからの伝統で、髪で作られた制服を纏う少女たちの物語。学園という、小さな、そして長い人生の中でのほんの一時の儚い世界。であると同時に、伝統として連綿と紡がれていく得体のしれなさ、虚ろさが独特の雰囲気を醸し出しています。

 

 髪で作られた制服を着るって、普通に考えると不気味です。念がこもっていそうで。他人の髪ならなおさら。でも、それが美しく描かれています。作中の髪の描写は本当に繊細で美しい。舞台となる星宮学園は、代々受け継がれてきたその「美しさ」で世界が構築されています。そして、その美しさの中にあるのは、少女たちの強い念(感情)。愛や優しさ、執着や束縛。ほとんど呪いに近いと思います。その中心にいるのが「星宮さん」。圧倒的な美しさでもって、少女たちを惹きつけ、呪いを振りまいていく。一方で、「星宮さん」自身は少女たちに対してはたいした関心を抱いていないように見えるどころか、むしろ学園を取り巻く呪いを厭ってすらいるのに、「星宮さん」自身がその呪いに一番囚われているというのがなんとも皮肉です。

 

 読んでいてなんとなく日本一ソフトウェアのノベルアドベンチャーゲーム夜、灯す」を思い出しました。直接的な関係はないものの、「夜、灯す」のタイトルが「繭、纏う」のオマージュだそうで。「夜、灯す」も女子校を舞台にしたゲームで、「繭、纏う」ほど百合要素は強くなく、少女たちの青春に比重が傾いているけど、面白いです。思春期ならではの未熟さとそこからの成長や少女たちの関係性を爽やかに描いた良作。百合要素が薄くはあるけれど、恋愛感情まではっきり描ききらないからこその尊みがある。鈴と有華、鈴と真弥、お姉様と私の関係性が個人的に好きです(最押しはお姉様と私)。おすすめ。

 あと、どうしても学園百合もの+姉妹ものというと「マリア様がみてる」を思い出します。あちらは等身大の少女たちが描かれている印象が強かったのに対し、こちらはどこか浮世離れした耽美的な世界が印象的です(どちらも好き)。久しぶりに「マリア様がみてる」を読みたくなりました。

 

夜、灯す - Switch

夜、灯す - Switch

  • 発売日: 2020/07/30
  • メディア: Video Game
 
マリア様がみてる1 (集英社コバルト文庫)

マリア様がみてる1 (集英社コバルト文庫)

 

 

 ※ 以下は、がっつりネタバレを含みますので、ご注意下さい。

 

 主人公である洋子は、学園の「美しさ」、呪いの枠の中にはいない。絢音の「あの子、醜いわね」という台詞が端的にそれを表している。だからこそ、洋子が華のために自分の籠もっていった繭から抜け出していくところは印象的です。でも、だからといって、華と結ばれる訳ではない。自分の弱さから抜け出せずに苦しんでいる華は、洋子を突き放してしまいます。洋子が自分の弱さを脱した途端、かつて洋子が他者を突き放してきたように、自分が持っていたのと同じ弱さによって突き放される展開は心が苦しくなります。印象的なところとして、洋子は「星宮さん」とは直接会っていないんですよね。それだけ、自分の繭の中に籠もっていたということを暗に示しているみたいで。だから、4 巻での「星宮さんに会いにいく」という洋子の決意がどこへ向かうのかはすごく気になります。

 

 そして華の行く先について。華は学園の空気に息苦しさも感じているけれど、それでもどうしようもなく学園に囚われてもいるんですよね。制服を纏った外側でない、透明な自分を見てくれた(と華は思っている)「星宮さん」に惹かれる一方、同じく自分を見てくれている洋子を突き放し、「星宮さん」とは別の意味で学園の「美しさ」を体現した絢音に魅了される構図はとても歪というか、少女たちの繊細さがすごく現れている部分だと思いました。「星宮さん」が何を思い、行動しているのかは徹底して隠されている(「星宮さん」の顔が描かれることはない)ので、星宮さん自身、華のことをなんとも思っていない可能性も十分にある訳で。「星宮さん」から受け取った髪を自分の制服にした時点で華はまぎれもなく学園に通う一人の少女でしかなくて、学園から出たがっている星宮さんの「王子様」にはなりようがなかったのではないか、とも思います。この華の見た目の凛々しさと内面が噛み合ってない感じがとても好きです。「星宮さんの」王子様になりたいのに、星宮さんの嫌う学園という世界の中の王子様になっているという、自ら沼に沈んでいくどうしようもない感じがたまらない。もうこのまま誰も救われないんじゃないかという気すらしてくる。だからこそ洋子の存在が眩しく思えるんですよね。

 

 あと、個人的に玲奈が好きです。自分が学園の枠組みの中にいることを自覚しながらも一歩引いた視点を持っていて。自分にないものを持っている洋子を妬むでも羨むでも、まして異質な存在として阻害するでもなく、純粋に応援できるのがすごい。強い人だなと思います。